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◇浮気 第3話

Author: 設樂理沙
last update Last Updated: 2025-03-09 08:14:44

3

「いきなり、なに?」

「うん、私ももうすぐ30の大台だし」

「美鈴は見た目25才くらいでまだまだいけんじゃん。

そーだな、おばさんねー……流石に40才越えたら

おばさんのカテゴリかなぁ。

でも昔と違って今の女性は見た目が若いからねぇ~」

「そうなんだ、40代からおばさんってカテゴリに入るのね。

そっか、そっか」

「どうしちゃったの、突然『おばさん』の話って、ははっ。

今日の美鈴、変だ」

「チーちゃん、昨日家に帰ってきた時のこと覚えてないの?」

「うん、そうだね。家に入ったのは覚えてるかなー」

「私のこと、『おばさん』って連呼してたこと覚えてないんだ」

「ブッ。そんな失礼なこと言ってないでしょ、言ってない」

「覚えてないのに、どうして言ってないって断言できるの」

「もし、言ってたとしても美鈴のことじゃないと思う。

誰かほかの女性のことだよ、きっと。

だって俺、美鈴のこと『おばさん』だなんて思ったことないもん」

「ふーん。まっいいや。そういうことにしておきましょ」

この問答があってか、チ―ちゃんはそそくさと家を出ていった。

          ◇ ◇ ◇ ◇

その週の週末は雨だった。

それなのに……朝から早起きしてる知紘が出かける準備を始めた。

「チーちゃん、今日は雨だよ。どうして出かける準備してるの?」

「あっ、チームのみんなでカラオケ行くことになってるんだ」

「チーちゃん、野球ないんだからさぁ、一緒に映画見ようよ。

Wowowの映画録画してるのもあるし、オンデマンドでも観れるし、

いいの探して一緒に観ようよ。前は一緒によく観たじゃない」

「それ、今度な。ひとまず今日はもう約束してるから。じゃ、いってくるわ」

「チーちゃん……」

玄関先で知紘に声掛けする私の目の前で知紘が玄関から外へとスルリと抜け出し、ドアがゆっくりと閉まる空間で私の声が空しく響いた。

『寂しいよ~』以前なら野球のない日にわざわざ出かけて行くことは

なかった……と思う。

例の真知子ちゃんが理由なのかもしれない。

私と知紘は結婚して7年なんだけど、7年で古女房って

よく考えてみると酷すぎなぁ~い? 

なんか、チ―ちゃんのことが分かんなくなってきた。

1週間前に酔っぱらって帰って来る前は、なんだかんだ

二人の生活が楽しかった。

たった1週間のことで、こんなにも私たちの間に距離が

できてしまうだなんて……。

交通事故にでもあったような気分だ。

そうは思いつつも、翌日は日曜。気を取り直して、明日一緒に過ごして

会話をすれば知紘の気持ちもそして自分の気持ちも、落ち着きを

取り戻せるだろうと思っていた。

……なのに、知紘は翌日も出かけるのだと言い、そそくさと玄関に向かったのだ。

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    85「だけど、一緒には行けない。私ね、地球に産まれて永遠のパートナーがいることを知ったの。その人《夫》と長い長い気の遠くなるくらい長い時を経てまた巡り逢えて、その夫だった圭司さんが迎えに来ることになってるの。彼がね、今際の際『この世とあの世の狭間に行くことができたらそこで待っててほしい。必ず迎えに行くから』って言ったの。だから、私はここでずっと彼を待ってなきゃいけないの。綺羅々、私のことは忘れていい女性《ひと》見つけて」お互いの行き違いのあった気持ち、そして美鈴とは両片想いだったことの確認もできた。だけど、自分との出会いのあとで永遠のパートナーに出会ったという。このことが綺羅々にとっては、返す返すも悔しいことだった。綺羅々は思わず薔薇の腕を取り、再度自分の気持ちを伝えた。「僕との金星での一生を終えてからその人とまた再会すればいいんじゃない? その人はまた少しくらいなら待っててくれそうじゃない?」そう薔薇の気持ちに揺さぶりをかけてみるも彼女は首を縦に振らない。綺羅々が彼女のことを想い切れずに腕を放さないで佇んでいると……。1人の男《根本圭司》が薔薇の腕から綺羅々の手を振りほどくと「悪いね、彼女を俺に返して」と言い放ち、薔薇を抱きしめて言った。「待たせてごめん。心配したろ? 不安にさせてごめん」そうやって男は薔薇に謝りながら肩を抱き、綺羅々の前から立ち去った。自分だってどんなに薔薇を好きだっか。ずっと薔薇が人間としての一生を終えるのを待っていたのに。交際をして妻になってもらいたいと思っていたのに。こんな結末が待っていようとは……。思えば思うほどひたすらに奈羅のことが呪わしく、心の中で彼女への憎悪が膨らんでいくのを止められなかった。そして綺羅々は失意のうちに宇宙船に乗船し、金星へと戻って行くのだった。

  • 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―   ◇行き違い 第84話

    84俺は知らないことにして尋ねた。だって、薔薇の部屋で勝手に覗いて読んだなんて言えないよ。「言って、それが何だったのかはっきり教えてくれないか」「綺羅々と奈羅が一夜を共に過ごしたと分かる映像が透明タッチパネルに送られてきたの。すごく悲しかった。私も綺羅々のこと好きだったから」もしもここで何も知らずに真実を知ったならと思うときっと、なんと怖ろしや、自分は混乱してしまったことだろうと思う。やはり、自分の知らないところで薔薇は苦しんでいたのだ。しかし、そうは思うもののせめて薔薇が自分を責めてくれていたら……と、到底無理なことまで考えてしまう。なんであの日酩酊状態になるまで酔っぱらってしまったのか、自分。なんで、もっと早くに薔薇に好きだと口に出して言わなかったのか。考えても考えても、後悔ばかりが襲ってくる。僕たちは奈羅の手によって両片想いを断ち切られていたのだ。しかも、薔薇も自分と同じ気持ちでいてくれたことを知った今では奈羅の所業は許せるものではなかった。そして薔薇を傷付けたことも到底許せはしない。「ただ酔っぱらって寝てただけなのに、君と僕の仲を裂くために奈羅が何かあると勘違いしそうな映像を君に送ったんだ、きっと。それが真相。あれから僕は君を上手くあの時の時間軸の金星にどうにかして連れ戻したくて、長老の所へ行き勉強してきたんだ。さぁ、まだ間に合うから僕と一緒に行こう」「綺羅々、ごめんね。私、ちゃんとあの時あなたに向き合えば良かった。でも好きだったあなたに奈羅とのことは本当にあったことだと……奈羅のことが好きだと言われるのが怖かった。本当に好きなのは彼女で私とは軽い気持ちで飲みに誘っただけだと知るのが怖かったの。早とちりして、地球に逃げてしまってごめんなさい。こんな私の事を長い間待っていてくれてありがとう。だけど……」「だけど?」

  • 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―   ◇現世を離れる 第83話

    83 ―――――――――― 夫からの今際の遺言 ―――――――――「古の契りを結んだあの時よりも、一緒に暮らせた今生でもっともっと君を 好きになった。 今までこんなに人を愛したことはない。絶対次の世でも一緒になろう。 もしも、美鈴がはぐれてしまったとしても僕はまた何年、何十年、何百年か かろうとも這ってでも君のところまで迎えにいくよ。だから待っていて」『―――――― で待っていて』と夫は呟やきあの世へと旅立っていった。             ―――――――――――私は子供たちに見守られながら、現世を離れた。 今はあの世と現世の狭間にいる。 先に逝ってしまった夫は今どこにいるのだろう。 いないはずの夫の姿を探していたら見知った顔が近づいてきた。「綺羅々、どうして……」 「薔薇《美鈴》、君が誤って地球に生れ落ちてしまった時は本当に つらかったよ。 どうしてあんな場所に連れていったのかと自分を責めもした。 それで長い間君が地球での一生を終えるのを待ってたんだ。 迎えに来た。どう? 金星にいた頃のこと思い出した?」「どうして地球に来て私を慰めてくれたの?  そしてどうしてこんなところで私を待ってるの?」 「薔薇のことが好きだからさ」「そうだ、私、薔薇って呼ばれてたのね」「思い出せたんだ、良かった」「でも、あなたは奈羅のことが好きだったんじゃ……なかったの?」「違うよ、僕は君が……君のことが好きだったんだよ」 「嘘っ。私はあなたに振られたと思い裏切られたような気持ちになって、 それが辛過ぎてあの日、わざと滑り台の上から地球上に滑り降りたの」「どうしてそんなふうに思ったの?  あの日は酔い過ぎて失態を晒してしまったけど、僕は薔薇と初めていっぱい 話せてすごくうれしかったのに」「だって……奈羅から見たくなかったものが送られてきたのよ」

  • 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―   ◇美鈴と圭司夫妻のその後 第82話

    82美鈴と圭司夫妻は、結婚して2年後に娘を授かった。そして、そのまた2年後に息子を授かり、彼らは4人家族となる。結婚後、立て続けに2人の子供に恵まれた美鈴は、元々在宅仕事をしていて融通が利くため、下の子が4才になるまでほぼ専業で暮らした。なので、贅沢はできなかったが、休日になると圭司が子育てや家事をできるだけフォローしてくれ、ストレスが溜まりがちな子育ても楽しみながらでき、2人の子供たちに思い切り愛情を注ぐことができたことは、非常に喜ばしいことだった。そして、いつも美鈴のことを気遣い子供たちにも愛情をたくさん注いでくれる圭司との暮らしは、美鈴にとって夢のようでもあり理想的な人生となった。好き合って結婚した相手から裏切られるという経験をしていた美鈴は、再婚にあたり実は少し不安を抱えていた。どんなに誠実な人でも心というものを持つ人間には、心変わりというものが常に付きまとい、誰がいつ新しい出会いで気持ちに変化が訪れるのか、誰にも分からないものだから。              ***やがて、子供たちそれぞれに愛する人ができ、彼らが家庭を持った時、美鈴は感慨い深いものを感じた。私と夫はまだ今でも信頼し合い愛情を持って一緒にいられる。これは本当に幸せなことだわ、と。そして、家から子供たちが巣立ち、また元の2人の暮らしに戻り日々の暮らしを積み重ねる日々の中で、1日また1日と夫と仲睦まじく過ぎてゆく日々に感謝と喜びを胸に刻み続けるのだった。          ◇ ◇ ◇ ◇そのようにして2人の愛しき人生はその後も続き、85才で圭司は天寿を全うし、美鈴もあとを追うようにして2人の間にもうけた息子と娘に看取られて、88才老衰で長患いすることなく別の次元へと旅立っていった。     ――――――――――――――――――西暦2022年からお話は始まっていますので、根本圭司が亡くなるのは――2077年頃 根本美鈴が   〃    2075年頃 すごいっ、どんな世界なのでしょう。                   ――――――――――――――――――          

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